ベアーズ・イヤーズと癒しのペトログリフ

1990年の近年まで、誰にも知られることがなかった古代プエブロインディアンによるペトログリフ「プロセッション・パネル (Procession Panel:行列のパネル)」は、ユタ州南東部のサンファン郡にあるコーム・リッジ(Comb Ridge)のほぼ頂上にある。

コーム・リッジは、南東のユタ州からアリゾナ州北東部にかけて、南北に130km近く連続している単斜構造。と言っても想像つかないですよね…。

かなり変わった地形で、こんな感じです。1976年に国立自然史跡(National Natural Landmark)に指定され、現在ではベアーズ・イヤーズ・ナショナル・モニュメントの一部として保護されています

このベアーズ・イヤーズ地域には、何千年も前から暮らしていた古代プエブロ人であるアナサジ族によるペトログリフや、洞窟住居などの遺跡が数多く残っている。先住民とはいえ、何百年も天体を研究し、農業に役立てるための暦を持っていたというほど高度な知識を持っていた部族。

ちなみにアナサジとは、後から来たナバホの人々によって付けられた名前で「祖先の敵」という意味。本来なら全くもって失礼な名称なのですが、古代プエブロ人にするとその範囲は広がりすぎて、呼び名問題はなかなか難しいようです。

まだアメリカ国内でもあまり有名でないベアーズ・イヤーズですが、そのユニークな地形と手付かずの野性味溢れた広大な自然は、古学者や地質学者、ロッククライマーなどアウトドア愛好家たちにとって重要な場所。

そしてネイティブ・アメリカン達にとっては、先祖が眠る故郷であり、儀式の場所でもある。

2016年、5つの部族(ホピ族、ナバホ族、ユインタ族、ユート族、ユート・マウンテン・ユート族、ズニ族)と、自然を愛する国民たちがオバマ大統領時代に嘆願書を提出し、晴れてベアーズ・イヤーズ・ナショナル・モニュメントとして保護されるようになりました。

がしかし、翌年2017年にトランプ大統領が就任してから、石油、石炭、ガス、ウランなどの天然資源採掘のため85%も縮小してしまいました。現在、アウトドアブランドのパタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード(社員をサーフィンに行かせようの著者)とネイティブ・アメリカン達が抗議する騒動となっています。(詳しくはこちら

なんだか、ホピの予言を思い出させる出来事。

2000年以上の昔から、ホピ族がずっと守ってきた聖地にウラン資源があることが分かり、ホピ族の反対を押し切って政府が採掘を強行。そのウランで、ついには広島・長崎の核爆弾を作ってしまったという実話。

ホピ族にはグレートスピリットから与えられたという予言の石板があり、未来の出来事が書かれている。その一部にこう記してあった。

母なる大地から心臓をえぐり出してはならない、もしえぐり取ったならば、それは灰のつまったひょうたんと化し、空から降り、やがて世界を破滅に導く。このひょうたんの灰は、恐ろしい破壊力を持ち、川を煮えたぎらせ、大地を焼き尽くし、生命が育たなくなる。そして人々は不治の奇病に苦しむのだ。(中略)人類がこれを争いごとではなく平和に利用することができる日まで、この場所を守っていかなければならない。(ホピの聖なる予言)

そしてまだ、予言は終わっていない・・・。


プロセッション・パネル探しに話を戻して。

メキシカンハットという町からUT163 を東に19.6 マイル行った頃、左手に鉄柵の大きなゲートが見える。勝手に開けていいものかどうか迷いますが、開けて入って、また中から閉じておきます。

そこからは、舗装されていない道Lower Butler Wash Road(CR 262) を走って、プロセッション・パネル のトレイルに近いパーキングというより空き地に駐車。かなりラフな道なので4WDの車が好ましい。(詳細はgjhikes.comが参考になります)

この日も快晴すぎる中の、往復約3マイル(4.8km)ハイク。そんな長くないと一瞬思っちゃいますが、何せ炎天下なので外に出るのがまず嫌だ。気合いを入れて、トレイルヘッドを探すも、そんなサインはまるで無い。

しばらくの間、どこから入ったら良いのか分からず、獣道から自分の背より高い薮を掻き分け、浅い小川を渡って行く・・・合っているのだろうか?

運良く、小川はこの猛暑の為、干上がっていて濡れたり泥だらけになることはなかった。藪を抜けるとトレイルマーカーがあって一安心。

このトレイルヘッド探しから薮を脱出するまでが、1番の難所です。

薮さえ抜ければ、あとはひたすらに広大な岩山を歩いて目的地へ向かうのみ。ところどころマーカーがあるので、よっぽどあらぬ方向へ行かない限りは迷わないとは思いますが、景色に見とれ過ぎた私たちは一瞬迷ってヒヤッとしました。

明るい布の切れ端を出てきた薮にくくり付けておくと、帰りにどの薮から入ったか簡単に分かって良いかも。

すでに少し標高が高いのと、視界を遮るものが何も無いので、ユタ州らしい恐竜が出てきそうな石器時代を感じられる景色が楽しめます。

こんな素晴らしい所に、無機質な採掘場ができたら相当ガッカリだな。

頂上付近になってくると坂が厳しくなり、最後の方は大きな岩をよじ登ったりする箇所も出てくる。

まだまだ夏真っ盛りの頃だったので、そんなに長くないハイクでも汗びっしょり。所々にある木の下で、熱中症にならないように休憩をとる。

季節は4〜5月のワイルドフラワーが咲く頃か、9〜10月頃がベストなのだとか。

そんなこんなでプロセッション・パネル を発見!向こうに見える景色は来た方角。はるか遠くにメサが見える。

Procession Panel, Comb Ridge

その名の通り、3方向から真ん中のサークルに向かって、人や動物達が行列をなして歩いている。サークルは、ネイティブ・アメリカンの人々がお祈りに使うグレート・キヴァ (Kiva)で、祈祷に向かう巡礼の図という説明が一般的のようです。

当時、たくさんの人々が参加するご祈祷フェスが行われていたのでしょう。そう言われてみると、大々的なイベント感がありますね。

私はこのペトログリフを見た瞬間に、大いなるソース(ワンネス)に還るというイメージを受けました。

松明のような物を持っている人々もいたり(左側)、鳥を頭に乗せた人や、杖を持ち頭に鳥を乗せてい大衆をリードしているような人(右)もいる。大きな動物は鹿かな。
この右下の首が長い動物?恐竜っぽいのは何だろう
その隣にもペトログリフがありました。人の手が蛇に噛まれているのか、それとも手からビームを出しているのか….

大体、ペトログリフは抽象的なものが多いですが、これはもっと具体的な構成で珍しいかもしれません。

不思議とこのプロセッション・パネルの前にいると癒される感じがして、しばらく眺めていました。

Sacred Images: A Vision of Native American Rock Art」にあった北パイユート族のエッセイ。

私たちが居た場所にはメディスン・ロックがあった。その岩はとてもパワフルだったから、私たちはよくそこにセージ(ハーブ)やタバコ、お金を捧げてお祈りをしたものだ。もし気分が落ち込むような時があったら、そこに行ってお祈りをするといつも気分が良くなった。

岩から生きる強さをもらう代わりに、感謝の気持ちとして捧げ物をする。それが私の流儀だ。私はメディスンマンではない。考古学者として、この地区の部族やペトログリフに敬意を評するためなら何でもしたいと思っている。そして、この場所に惹きつけられた真摯な白人にも同じように敬意を持っている。

ある老人が私に話してくれた「これらのペトログリフは人々を癒すためにそこにあるのだ。白人達がそこに行くと、彼らも幸せになる。白人達の中には、生涯を通じて眺めている者もいて、彼らの生活をより意味深いものにしている。たとえ白人であろうとも、岩は癒してくれる」だから、私は白人たちを危険な存在とは思わない。

ロックアートは人々を幸せにし、人生を意義深いものにし、そして癒しているのだ。 Melvin Brewster / Northwest Paiute

 

Bears Ears National Monument