厚い信仰があればアタらない ババご飯 in Rishikesh

「君はこの旅でいろんな人に出会い、話し、いろんな経験をするだろう」

私は自分の宿に一旦戻った後、昨夜お祈りを捧げてもらったガンジス川(通称ガンガー)へ向かった。

そして柳の影になっている岩の上に座り、ひとり呆然と川の流れを眺めていた。ガンガーは昨夜見せていた黒光りの表情から一変し、エメラルドグリーンに輝いていた。

何分経っただろう、髪を編み込んだインド人が視界に入ってきた。私はまだ疲労感が残っていたのでボーッとし続けていたが、いつかこの人は話し掛けてくるだろうと思っていた。

その数分後、予想通り話し掛けてきた。ただ予想外だったのは、流暢な日本語で「日本人ですか?」と聞いてきたこと。大体の場合、日本語が話せる(異性の)外国人に対しては、警戒のハードルは十二分に上げておいた方がいい。何らかの下心があるかもしれないから。

でも中には純粋に日本文化が好きで喋りたいという人もいる。一人旅の時だけはその判断力が研ぎ澄まされ、初見の直感とムードで大体分かる。そしてこの人は、8割り方曲者。私は彼の中にある異様な重さを感じていた。

話してみると、意外にも私の実家の隣街と縁があって、仕事で何度か訪れるようになり日本語を習得したのだそう。でも、そう簡単に警戒心は解かれない。

「ガンガー入った?」「入ろうよ!今なら入っても服すぐ乾くから大丈夫」と誘ってきたその時、彼の友人らしき若いインド人青年がやってきた。髪型から何から都会風だった。裸足を除いては。

その外見とは裏腹に、ものっすごいインド南部訛りの早口英語で挨拶をして、「僕はタミルからやって来て〜」と嘘か本当か分からないほど上手な訛りで笑わせてくれた。私はラマナ・アシュラムのおかげでタミル語に親近感があり、少し懐かしい気分になった。

ただ彼は、コメディアンのような瞬発力で冗談を飛ばす時以外に見せる、塞ぎ込むような悲しい表情が少し気になった。

正午近くになり、どんどん日差しも暑くなってきたので私もガンジス川に入ることを決断。

彼らと5分ほど河岸を歩いていると、二人のサドゥ(インド人は彼らのことをババと呼ぶ)たちが、炎天下でランチの準備をしているのが見えてきた。彼らは当然のようにババの元へ歩いて行った。

うーむ。私が尻込みして少し遠くから眺めていると、手招きをしてきた。

「お腹空いてない?ババがランチに招待してくれたから、できるまでガンガーに入ったらいいよ!」

またビミョーなことを言い始めた。彼らはジーンズを脱ぎ、インド人定番スタイルのドーティを腰に巻きつけ、川に入り、伝統の3回潜りの手本を見せてくれた。そして私は暑さに耐えられなくなり、服のまま川へ入った。

 

臭くな〜い!

噂では臭い汚い、入ると寝込むと散々聞かされていたガンジス川も、上流では全く嫌な感じはなく、楽しく遊べる普通の川だった。さらに上流にはラフティングのボート乗り場もあり、ホーリーというよりレジャー感いっぱい。

しばらく川で遊んで、ババのところへ戻るとキャンプのような料理が始まっていた。驚いたことに、この一つの火だけでライス、チャパティ(ナンの薄い版)、カレーの3品を調理するのだ。

この人たちの時間という概念は、私たちのそれとは大分違うのだろう。野菜を切り、粉を練ってチャパティを作り、米をガンジスの川で洗い(ホーリーウォーターだよ〜涙目)マイペースで調理する。

お手伝いをオファーするも、無言で首を振り、そこ座っとけの合図。

彼らはババから買ったタバコを吸ってリラックスしながら、ババに人生相談をしていた。ヒンディー語だったので詳しい内容は分からなかったが、何となくそのムードで理解できた。

私はやることもなく、服を乾かしついでにぼーっと座っていると、犬を担いだババがやってきた。

2頭の牛は食べ物探しに夢中だったが、この白い牛は心配そうに犬を見ていた
ずんずん川に入っていく
思いっきり肩から投げ落としたー!そそれは洗うというより虐待じゃないですか?

インドにいると、どうなんだろ?という出来事のオンパレードで、自国とのギャップを楽しめる人にはとてつもなく味わい深い国。そして取り憑かれたように何度も訪れるようになるか、もう二度と来るか!と大嫌いになる人と真っ二つに別れる、そのエクストリームさもインドらしい。

そうこうしてるうち、ようやくババクッキングの出来上がり!

ジャーン!

ババはその小さなフライパンで作った料理を、いつの間にか集まってきた他のインド青年たちにも振る舞っていた。

すごいな。ババたちの食べる分が無くなっちゃうじゃない?何故この青年たちがババのなけなしのご飯を平気で食べられるのか?っていうか、お腹壊さないのか?いろいろな疑問が頭をよぎった。

私が食べないでいると、ババは直接私に食べるように言ってきた。それでもまだ少し躊躇していたが、インド人青年の「大丈夫、神への信仰が厚ければアタらない!」という一言が背中を押した。

すごいクセのある味がするのかと思いきや、意外にもシンプルで普通に美味しかった。

タバコも勧められたが、私は苦手なので丁重にお断りした。そして所持金の数ルピーを寄付して、敬意と感謝を込めてババの足に触れ(インド流の年長者やグルに対する敬意の挨拶)、その場を後にした。

これがインド2日目のランチ。

幸い、厚い信仰心のおかげで(本当か?!)胃腸がやられることもなく、水あたりで2〜3日寝込んだキューバやモロッコの二の舞にならずに済んだ。ちなみにババもちゃんと食べていたのでご安心を。

にしても、あんなに小さなフライパンでどうして、あの人数で分けられたのかは不思議・・・

良い子のみんなは真似しないように。しないか。